インタビュー

社会情報学部長インタビュー ~男女共同参画を語る~

【とき】平成30年8月23日(木)

【場所】荒牧キャンパス・まゆだま広場

【インタビュー】 柿本 敏克 社会情報学部長

【インタビュアー】末松 美知子 男女共同参画推進室員
長安 めぐみ 男女共同参画推進室副室長

社会情報学部における男女共同参画の現状

末松:今日は3つのトピックでお話しいただければと思います。まず、社会情報学部における男女共同参画の現状について。次に先生ご自身の男女共同参画に関するエピソード。そして、最後にこれからの群馬大学の男女共同参画への期待などについてお願いします。
では、最初に社会情報学部での教員や学生の男女共同参画についての状況について。

柿本:女性教員については現在いらっしゃる方が3名。

末松:1割ですね。10年間増員できなかったこともありますが、人文社会系の割には女性が増えないということが不思議なところです。分野的に何か難しいところがあるのでしょうか。

柿本:人文社会系で入替や採用がなかったことが一番大きいと思います。私の専門の心理学は女性の研究者が多くて、なかでも特に発達心理などは9割ぐらいが女性です。なぜ女性が増えないかといいますと採用がないということ、それに尽きるのではないでしょうか。

末松:採用があった分野に、女性はいなかったようですね。

柿本:最近は、数理系の採用が続いておりました。比率的女性研究者が少ない領域だとは思います。

末松:教育学部は優秀な人を採用したら、結果的に女性が増えていたという素晴らしい状況のようです。社会情報学部も、人が入替るチャンスが増えれば、同じような状況になっていくかとは思うのですけれども。

柿本:でも、大学の教員は結局、「個人」の特別な力が認められるところだと思います。性別ではなく、その「個人」の力が評価されるところだと私は思います。ですから、力がある優秀な人がいれば、何の問題もなく採用される。教育学部の例はそうだったのではないでしょうか。同等の力を持っていれば女性を優先的に採用することは、日本の多くの大学でやっているでしょうし、欧米では普通だと思いますので、その条件は崩さなくていいと思います。
末松:女性限定ポストをお考えになったことは?

柿本:考えました。私は何としてでも人を採りたいので、優秀な女性に来てもらえるようなポストを学部の将来構想の中に位置付けられたら。むしろそのようにしたい。

末松:多文化共生や異文化理解のようなグローバル関係の科目は女性も多いので、そのような分野を将来的に広げられるようなご予定があれば、ぜひ女性限定で試みられると。

柿本:学部としてはグローカル地域創生という領域を伸ばしていこうと将来構想委員会で挙がっているので、その方向で考えています。いい人材がいるのであれば、それを女性限定で採用することはありではないでしょうか。

末松:学生については男女半々くらいですね。

長安:今現在の女子学生の割合は52.6%です。

柿本:伝統的に女子学生の方が活発だと言われてますね。

末松:確かに。成績を見ると女性が上位ですね。

柿本:真面目に勉強する人が多い。あとは勉強だけでなくて、何かしらで活躍している人が多い。かつて、2学科に改組された年は男性7割、女性3割でした。男性は経済や政治分野へ行きたがるのですかね。そこで男性の割合がぐっと増えたのですが、また戻ってきました。

長安:学部のパンフレットを学生が編集していますよね。

柿本:あれは大体女子学生ですね。

末松:去年か一昨年は女子学生がほとんどだったのでは。

柿本:ほぼ毎回リーダーは女性ですね。ただ、リーダーシップを取る女性は性別を超えた存在感がありますね。群馬は女子高出身者が多いのでリーダーシップに慣れていますね。

末松:そうですね。高校である程度ノウハウを身に付けてきているので悪いことばかりではないですね。

長安:留学も女の子が多いでしょう?

末松:多いですね。以前、オーストラリアへの短期留学で参加者全員女子学生だったことがありましたね。男子学生は一体何をしているのと(笑)。

長安:色々な説明会などに出てくるも女の子が多いですね。あれもすごいなと思います。

柿本先生の男女共同参画

末松:では、柿本学部長ご自身のエピソードを伺えますか。

柿本:専門は社会心理学で特に集団間関係の心理学です。分かりやすいキーワードで言うと『ステレオタイプ』・『偏見』・『差別』です。そこで対象となる「集団」はは男女だけなく、民族や人種、階級などがそうです。多分年齢なども入る。いろいろなカテゴリー、境界あるいは区別に基づいて、協力や対立が生じることがある。ヨーロッパでは何百年と戦争をしていましたし、アメリカでも人種問題などが大きく取り上げられてきた。そういう紛争は人類社会に害があるから、何とか解決しようということがこの研究領域の発端になっていると思います。ですから、「区別」と「差別」というのは結構大きなキーワードですね。
男女共同参画に関して言うと、男性と女性に区別がある、多分これは事実だと思うのです。しかし、それが差別になると問題になります。私はあらゆる差別に反対で、あらゆる差別が許せないのですけれども、ここで「区別」が「差別」になるかどうかというところは微妙なところです。実態として「差別」と思われるか、思われないかは、主観によるのです。その「区別」が当たり前だと思われたら「差別」とは呼ばれない。それぞれどう感じるかは人によって多分違う。人によるだけでなくて、社会に構造として埋め込まれている場合もある。
文化もそうなのですね。「文化」というときに、---文化心理学というものが社会心理学の一部にあったりしますけれども---普通、文化は、人間社会の感性のようなもので、それを維持することが「真」「美」「善」などの価値とも結びついているから、維持すべきだという発想もある。それが男性、女性の区別に関わる場合は、女性にとって、女性を虐げてきた文化でもあるわけです。

末松:そうすると、日本の単一民族ゆえに平和的な時代が長く続いたというようなことと、現代の男女差別というのが根強く残っていることと何か関係があると考えられますか。

柿本:それは直感的なもので、歴史的には分析できないのですけれども。でも、戦いがないと男性は戦士としての価値が落ちて、当然地位も下がるはず。

末松:なぜ未だに日本は女性の地位が低いのでしょう。

柿本:おやじの力が強いのですね。

末松:平和なのだから価値が低くなってもよさそうなものなのに。

柿本:相対的には減っていると思います。末松先生、ヨーロッパはやはりマッチョ文化が強いですよね?

末松:個人的な印象ですが、マッチョ文化はその存在価値が無くならないように、必死に頑張って維持しているところが若干ありますね。日本ではあまり気にしなくても男性は尊重される風潮が残っていますので、別にそれほど性的アピールなどをしなくてもよい。

柿本:分かります。境界が流動的なときに、最も厳しい対立が起こるのですね。今マッチョ文化が盛り上がってきているのは、何とかこの境界を維持したいからでしょうか。

末松:維持したいのだと思います。では、日本では中性的や草食系などと言われる男性が増えているということは危機感がないことに繋がっていると思われますか。

柿本:ないと思います。

末松:色々な国力を測る指数では、日本は政治分野の男性度があまりにも高すぎますよね。男女共同参画の地位が100何位でしたか?

長安:114位です。

末松:それは表舞台で女性が活躍する意味がないと、女性自身が考えてしまっているところが問題だと思います。

柿本:変化が遅いのではないでしょうか。でも、終戦の1945年は大きな変化のときで、多分がらりと変わったと思います。戦前と戦後では男女共同参画という観点でもがらりと変わったとのではないかと思うのです。

長安:女性議員がすごく増えましたね。

柿本:それと、高度経済成長は戦争の延長だとよく言われますね。

長安:ですから、女性は家を守らないといけないのですね。

柿本:そうそう。男性は戦士の代わりにサラリーマンになり、会社で闘ったのです。ですが、今はそれがなくなりつつある。

末松:これから変わっていくということですか。

柿本:あまり戦士としての必要性がなくなっていくので。

末松:だけど、今の学生は、母親は家にいて家を守るという世代の母親に育てられているからでしょうか、将来の夢を尋ねるとと「2~3年働いたら結婚して家に入る」と言うので、驚かされます。

長安:専業主婦として家庭に入りたいと?

末松:そう思っていますね。「お母さんと同じようにしたい」と言うから、それは無理無理、時代が違うと言いますけれどもね。

長安:そうできる人は10人に1人ですね。

柿本:親世代がどのような教育を受けたかで、10年周期くらいで変わってくるという話も聞きますね。戦後すぐの非常に民主的な教育を受けた世代は、その子どもたちも民主的で。例えば「奥さん」、「きれいなお嫁さんになって結婚して」などとは言わないそうですね。でも、その次の世代は、その前の世代に育てられているので、おっしゃったとおりです。

『生き延びる力』を伝えたい

末松:先生のところは、男の子のお子さんですか。

柿本:ふたりとも男の子です。

末松:何か教育はされていますか。男女共同参画ではないけれども、「おまえも料理した方がいいよ」など。

柿本:私が昼食を作ってあげることはあって、その際に「料理はできた方がいいよ」ということは言います(笑)。一人暮らしを7~8年していたので、健康的に生き延びられる自信はあります。そして、これは言いたかったことですが、子育てというのはプラスアルファのスキルで、別次元の知識とスキルがいるのですね。子どもが生まれる前に育児本を読むなど、それなりに色々やりました。と言っても、子どもに教えられるようなスキルや知識は全然ないです。ただし、1人で生きていける力は必要だし、「どこ行っても生きてけるようになれよ」というようなことは言いますね。

末松:自立してもらわないとね。今は結婚がなかなか難しい。学生も夢は結婚して一人前の社会人になってフルタイムで働くことですなどと言います。それが夢ですからね。それだけ難しいということですね。

長安:今、男の子が求められる力はすごく大変ですね。料理も作れなければだめだし、稼げなければだめだし。子育てもできなければだめだし。

柿本:やる気になって時間を掛けて勉強すれば、何でもできると思うのですけれどもね。私は小学生の頃から簡単なうどん程度は作っていましたが、初めて家を出た留学のときが自分で生き延びられるかの本当の試練でしたね。同居していた外国人が「俺の最初の料理はスパゲッティだ」と言うので、「じゃあ俺にもそれ教えてくれ」とお願いして始めたのが最初でした。フィジー出身の大学院生でしたけれども。彼は、親と離れて生活していて小学生の頃から料理を始めていた。

長安:生き延びる力を持ってと。

柿本:それを私に伝えてくれたのですね。だから、私も自分の子どもに伝えたい。

本学の男女共同参画への期待

末松:それでは最後に大学としての男女共同参画やダイバーシティについて何か。今はLGBTなど色々ありますが、学生に関心を持ってもらいたいこと、あるいは大学として進めていくべきことなど、お気付きの点があれば、是非。

柿本:これは何かちょっといいことを言わないと。大学としてというのは少し大きな単位ですね。

末松:そうですね。大学教員として。

柿本:大学は理想的な社会だと思うのです。学生も「個人の能力」で評価される場です。だから、就活をすると急にそうではないということが分かるのですが。ですので、大学はそのような理想的な「個人の能力」が評価されるし、その能力を伸ばすように育てている「社会」なので、そこでは理想を実現しないといけない。そのためには、男女の区別に基づく差別も含めて---これは気付けるかどうかが大事なのですけれども---もし何か不当な差別だと思われるものがあったら、それは是正していくべきだと思いますね。

末松:それをできる人間を育てる場ですね。

柿本:できるというのは多分、色々なリソースを動かす、動員して人を集めて…。でも、難しいですね。私には一番ない政治力が必要なので。あともうひとつは知識ですね。そのためには、ぜひ社会心理学も学んでもらうと良いと思います。あとは、人権の問題は法律学だと思いますが、それを学んでもらって、どうあるべきかが語れるか。語れて、もっと言えば、人を動かしていける力。これはどうやったら付くのですかね。分からないですが。

末松:私も演劇をやっているので、感動という意味で心を動かすという仕組みについては常に考えています。どのようなときに人の気持ちが動くのか、それはセリフであったり、音楽であったり、視覚情報であったりと色々ですが。それを考えるのには社会情報学部はよい学部だと思います。

柿本:末松先生は個々の人の心を動かすことについておっしゃったのですが、それを組織力にしていくという…。

末松:なるほどね。でも、少し怖いですね。煽動のような。

柿本:そこが難しいのですね。でも、その運動論がないと、多分大きく変えられない。あと、議論できるというのは大事なことですね。遠慮なく議論する。議論することはタダだし、争う必要はないですね。単に議論。学問で議論することは別に普通のことなので。大学は喧嘩にならない議論ができる場だから---実社会だと喧嘩になって利害の対立にまで発展するのですけれども---そうならないで出来る場だからこそ、きちんと議論ができる。

末松:何も言わないで分かり合えるなどということは良くないですね。しかし、日本的な『和を以て貴しとなす』のような風潮だと議論を抑えつけてしまって、暗黙のうちに皆がひとつの方向へ行ってしまうようなところもあるので、それはやはりよくないですね。

長安:安全に議論するには練習も必要ですね。でも、議論はタダというのはいいですね。

柿本:努力もタダ。

末松:でも疲れる。

柿本:しかし、お金が掛からないのでタダ。勉強もタダといつも言っています…先ほどの議論のスキルというのは結局、穏やかに、和やかに議論できることですね。

末松:人間の心理をきちんと読んでね。でも、議論はタダからと言ってしまうと、果てしない議論になって、結果的に不毛な議論になったりもするので、気を付けなくてはいけないところもありますね。

柿本:そこはファシリテーターね。

末松:それはスキルが必要。

柿本:しかし、あまりにも見えてしまうと、それはソフトな専制君主なのですね。

末松:なるほど。ソフトな専制君主。

柿本:にこやかに皆で決めているのだけれども、実は初めから…。

末松:決まっている。でも、学生が議論をしながら自分の役割を見つけられるといいですね。自分はファシリテーターにはなれないけれども、それをサポートする人にはなれるとか。あるいは、常に疑問点を投げかける人など。良いお言葉を頂きました。

末松:では、男女共同参画推進室に希望することが何かございましたら。こういう催しをやって欲しいとか、逆にこういうことは意味ないのではなど。

柿本:会議の議事録を拝見しますと、すごく議題がたくさんありますよね、息切れしないですか?

末松:しています(笑)。専任の先生はひとりだけなので増員も考えています。でも、委員は皆非常に熱心な先生方ばかりです。

柿本:そこなのです。どんどん事業を抱えていますよね。

末松:少々悪循環ですね。(事業が採択されて)予算が付いて、それを消化しなければいけないので、色々なことをしなくてはいけないのです。

柿本:でも、非常に立派ですね。全国にも誇れるレベルになっていると思います。だだ、それでしんどくならないように。

末松:まだたった何年かですから。本当に皆さんのおかげです。元々は平塚学長が理事のときに立ち上げられて。今も非常に熱心に色々な催しにも出てくださるし、いつも気に掛けてくださって。

柿本:男女共同参画100%充実できたら使命が終わるのですね。

末松:すみません、お時間です。楽しいお話をありがとうございました。

柿本:ありがとうございました。楽しかったです。